2004年09月22日15時53分41秒

お蔵だし [ 5秒で読もうと思えばできなくもないもの ]

今日はお休みですが、ちょっとこまごまとやることがたまって一つづつ潰しています(^^;

最近、また更新してないし(^^;、初期に三語一行で書いてお蔵にしてあったものを貼ります。結局見せなかったものもあるかなぁ。まあ内容は不問の方向で……(ーー;

『天国』
 九官鳥が「オキロオキロ」と五月蝿いので目が覚めた。窓のサッシを開けると、陽が昇ってあまり間もない時間帯のようで、眼下のビル群が次第に陽に焼けて黄色く、明るくなっていく様子を、私はパジャマ姿で伸びをしながら眺めた。地上五百メートルの高層マンションに住む私にも、平等にお日様は光をくれる、いや、私は五百メートルぶんだけ、地上で生活するものより早く日光をもらえるのかもしれない。なんだか得したような気分でいると、九官鳥は「メシ! メシ!」と人の感傷などお構いなしに叫ぶ。憎たらしい、と思いながらも、そりゃあ朝日が昇れば腹もへるわな、と思いなおし、ガサガサと鳥餌の袋を餌箱にそそぐ。餌をついばむ九官鳥を五秒間だけ眺め、五秒分の愛を注いで、踵を返し、自分の栄養のため、キッチンにたつ。昔卵と昔トリハムでハムエッグ、昔食パンをトーストする。昔コーヒーをサイフォンでいれると、やがてクツクツといい匂いがしてくる。ブレンドのコーヒーをカップに注ぎ、ハムエッグの黄身をすすり、トーストのカリカリをガジガジと齧りながらも、テレビの左隅のデジタル時計の秒数は横目で見ている。テレビの片隅にいる、ポリゴンのカリフラワー頭をした女のヒーという悲鳴が鳴り響いた。もう時間だよ、の合図である。そろそろ行かねば、決然と立って、昔ジーンズと昔Tシャツを着込み、玄関にむかう。玄関を開けると、二十世紀の地球の日本に繋がっている。私はそこの会社でパソコンのキーを打ったりして働く。お金をもらい、昔食材を買う。いまの地上は、会社のビルも建てられない、人も住めない、毒ガスとガスに耐えられる生き物の住処なのだから。


『月とミヤ』
月がまんまるで、あまりにふくよかなので、微笑ましくてミヤは「あはは」と笑う。ミヤはスカートの丈を詰めたり、友達と写真を撮ったり、ジャンクフードを食べてお喋りしたり、色々忙しいけど、忙しいあいまを縫って、月を眺める。月はまんまるで、月もあはは、と笑っている。ミヤも笑い返す。笑って笑い返すたびに、月は嬉しくて、接近してくる。接近された地球は、重力の関係で大地の土を月に引き寄せられ、反対にした砂時計のように月に吸い込まれていく。月と地球はお互い、吸い込み、吸い込まれ、融合しながら、ミヤはあはは、と笑っている。


『菊地センセイ』
とある蕎麦屋に入り、菊地センセイと私は向かいあって座した。給仕の女と、二言三言注文のために言葉を交わし、菊地センセイと私は一言も言葉を交わさないのだった。やがて、ざる蕎麦が運ばれてきた。私と菊地センセイは物言わず、器にみたされた黒いつゆに蕎麦を漬け、つるつるつるつるとすすって食べた。菊地センセイは黙して蕎麦を食う。作務衣を着たセンセイは、ぼさぼさに伸びた髪で顔の上半分を隠しながら、蕎麦をすする。作務衣からにょっきりと伸びる鶏がらの腕が、井戸ポンプのように上下する。ふと箸を置いて、センセイはつゆの入った器を覗きこみながら言う「黒い海に、星星がみえるね」私は言われて、慌てて自分の器のつゆの黒い海を覗きこむ。葱が浮かぶばかりである。「葱が浮かびます」と正直に答えた。すいません、と後で付け加えた。すべてに、近きを、遠きを見据えるセンセイのことである。きっと、そばつゆから、宇宙の開闢の物語が語られるにちがいない。私は息をのんで次の言葉を待った。センセイは頭をぼりぼりとかきながら仰った「仕様がないなあ。フケが入っちゃったよ」

Posted by kakimi at 2004年09月22日15時53分41秒 | コメント(0) | Trackback(0)



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