2004年06月02日01時30分28秒

腕 [ 5秒で読もうと思えばできなくもないもの ]

 手の届く範囲、とはどれだけの距離のことをいうのか?
 たとえば権力や財力の比喩とすれば、世界の裏側まで手の届く人もいれば自分の肩に手を回すこともできない人も居る。
 しかし単純に人間の肉体の長短の話ならば、腕の付け根から指先までの腕のリーチのことだろう。
 ツモ氏は生まれつきある種の音で腕が伸びる体質だった。時の王様はこれを大層面白がり、ツモ氏を宮殿に呼んでは色々な楽器や陶器、中が空洞の朽木などとにかく音の出る物を集めてツモ氏の前で打ち鳴らした。腕は鳴らされる音によって一センチ伸びたり三センチ伸びたりピクリとも伸びなかったりした。伸びた腕は伸びっぱなしで元に収縮することはなかった。
 ツモ氏は毎日宮殿に参上し、王様の暇つぶしに付き合って腕を伸ばし、夕暮れて家族の待つ邸宅に帰った。邸宅はツモ氏の腕が一センチ伸びるたびに増築され、装飾は華美になり、敷地はどんどん広がっていったが、そんなことよりもツモ氏には自分の帰りを門で待っていて胸に飛び込んでくる幼い娘の頭を撫でてやることのほうが喜びだった。
「父様、また腕が伸びたの?」
「うん。今日は四センチも延びたよ」
「あんまりよくわからない」
「毎日見てるからだよ。朝顔もそうだろう?」
 ある日、大陸から珍しい楽器が献上されてきた。ドラというその楽器は二つの円盤を打ち鳴らすと低いくぐもった音が大気を震わすようにして長く響き渡るものだった。さっそくツモ氏の前で打ち鳴らしてみると一度鳴らしただけでなんと一メートルも腕が伸びた。王様は狂喜してドラをジャンジャン打ち鳴らさせた。
 一度鳴らして一メートル。二度鳴らして四メートル。三度鳴らして十六メートル。
 鳴らせば鳴らすほど腕は倍倍に伸びていった。ツモ氏の腕は百メートルを超え一キロを超え百キロを超えて宮殿の窓からひょろひょろと伸び海を越えて大陸まで届いてしまった。ツモ氏は王様の命じるままに大陸のむこうで手に触れたものを次々と宮殿のほうに投げて寄こした。
 王様は「ほう、これが大陸の石ころか。ふむ、これが大陸の大根じゃな」と一つ一つ検分して楽しんだ。
 ツモ氏は王様のそんな姿を横目に見ながら、宮殿の窓から空の彼方の見えなくなるあたりまで延びている自分の腕を悲しんだ。
「ああ、もう娘の頭を撫でてやることができない」
 ツモ氏は腕を己が国で霊峰と呼ばれる山に向けた。霊峰の山すそをしっかり掴んで自分の体をひっぱった。ツモ氏の体は一瞬で窓から飛び出し霊峰へと飛んだ。そのさまは忽然と姿を消したように見え、まるで最後の奇術のようだった。
 ツモ氏はその後土蜘蛛氏と呼ばれ伝わっている。

――――――――
ごはんサイトの三語即興文で書いたもの。
お題は、たしか「ツモ・リーチ・ドラ」。追加ルール「麻雀の話にするな」。
今気づいたけど、円盤を二つ打ち鳴らすのはドラじゃない(笑

Posted by kakimi at 2004年06月02日01時30分28秒 | コメント(0) | Trackback(0)



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