2004年07月13日21時29分49秒

『閻魔堂』 [ 3分で読めるもの ]

 観光で唐人屋敷を見学した時、屋敷の庭の片隅に、古めかしい格好をした稚児がいた。稚児は腹をすかせているのか、旺盛な食欲で、カシの木の根元の土を食っていた。近づき「お前は霊であろう」と私が聞くと、「ウグウグ……はい、そうですが……ウグウグ」と土を食いながら稚児は答える。「蚯蚓じゃあるまいし、あさましい真似はよせ」と同情ぎみに私は、しゃがみこみ土を手一杯に盛って口に運んでいる稚児の肩を掴んで引き戻した。稚児は私のほうを振り返り、視線の定まらぬ黒目を私にむけて「では、どうしろというのです。私は腹がすいてたまらない」と問い返してきた。稚児は血色がよい顔をして、年齢に似合ってぽっちゃりとした身体をしていたのだが、朦朧とした瞳と、その表情は飢餓に見舞われた人間のそれであった。「私は、生前に一度だけ蚯蚓を弄んだことがあります。釣りの餌にするでもなく、引きちぎって遊びました。それが、閻魔の監察に触れたらしいのです。生前、そんなことは忘れておりましたが、死後にこうして土を食っている情けない有り様を思い知るにつけ、きっと、これは罰であるとおもうのです」私は、なんだか気の毒になって、「では閻魔に嘆願してやろう」と約束した。唐人屋敷をあとにして、私は観光マップに載っている閻魔堂にむかった。小さなお堂の内には、ご本尊の閻魔がカッと目をひんむいた怒りの表情で座っており、私は閻魔の前の賽銭箱に五百円硬貨を放り込んで祈った。ちいさな者にあの仕打ちはひどい、おめこぼしがあってもよいのではないか、などと心のうちで願っていると、極彩色の閻魔象はギロリと私のほうを見て、のたまった「あの蚯蚓は、お前の母であったが、それでもよいのか」「は? 母は息災ですが」「今の母ではない。前の生で、お前が蚯蚓であったときの母だ」「そうは言われましても」前世の母の話をされても、私としては、やはりどうにも稚児のほうがかわいそうである。「蚯蚓の母は、お前たち子供らを逃がすために土の浅いところに敢えて居て、あの稚児にみつかったのだ。母が裂かれているあいだに、お前たち子供らは土の深いところへ逃げおおせることができた。すこし、前の生のことどもを見せてやろうか」閻魔はそう言うと、手にした鉄扇で私の額を突いた。私の意識は暗転し、気がつくと、暗い坑道ようなところに立っていた。光はさしていないが、どのみち私の目はみえないのでたいしたことではない。みえないが、私の周りにはきょうだいたちと母がいるのがわかった。母は樹液で固めた土団子を作っており、その周りをきょうだいたちが囲んでいた。私もその輪に加わった。そうだ、私も、他のきょうだいたちも、母の作る土団子が大好きだったのだ。すこしヤニくさく、ほんのりと甘い。坑道のなかは、土臭く、暖かで、とても安心していられて、なつかしかった。母は握りおわった土団子を、きょうだいたちめいめいに配り始めた。私も母に土団子を渡されて、そこではっと気がついた「いけない。母様、もうすぐ上から災厄がきます。早く逃げなければ」私はあせってそう進言したが、母はきょとんとした顔をしていた。私は、もどかしく、私が次の生で人であること、これは過去であるから私は先におこることを知っていること、早く逃げなければいけないということを説明したが、母は不思議そうな顔をするばかりである。周りのきょうだいたちも、よくわからないという顔で土団子を頬張っている。その時、坑道ぜんたいがグラグラと揺れ、天井から大小の土塊が落ちてきた。坑道のはるか上のほうから、ザクッザクッという掘削音が大きく響いてくる。きょうだいたちは怯えた表情をして、おたがいにすり寄った。母は、険しくも毅然とした顔で「奥へ逃げるのです。さ、はやく」と私たちを叱咤し、ひとり、坑道を上へと駆け上がっていった。私は、いけない、と思い、母のあとを追った。きょうだいたちは泣きながら坑道の奥へと逃げて行き、私はひとり、全力で駆けて行く母の姿を必死で追った。しかし、駆ける母のあしはおそろしく早く、どうしても追いつけない。やがて、坑道の先に、光が見えてきた。坑道の出口の、眩しい光の空間に、敢然と立ちはだかる母の影があった。その母の影を、巨大な手が鷲づかみにするのを、私は見た。私は、駆けあがって坑道の出口まで顔をだしたが、外は、あまりに眩しくて、なにも見えなかった。なにも見えない、光ばかりの世界で、そのはるか上のほうで、肉を引き裂く音と、母の断末魔の叫びを聞いた。わたしの身体に、母の体内の液体が浴びせられ、私は、濡れた鬼の顔で吼えた。泣き、叫び、喉も引き裂かれてしまえと吼えたが、光の世界は、ただ眩しいばかりで、なにも答えなかった。
「どうだ」閻魔が私に聞いた。私は閻魔堂の板敷きにへたりこみ、放心した顔で閻魔を仰いだ。「私は」と言いかけたが、なんと続けたらいいのか、わからない。しばし黙り込んでかんがえた。かんがえて、それでも、とおもった「やはり、お慈悲を願います」無残な気持ちだった。でも、どちらに答えても、無残な気持ちになるように思われた。「あいわかった。願いが必ずしも聞き届けられるかはわからんが、たしかに受理した」閻魔がおごそかにそう述べ、私は閻魔堂をあとにした。その後、稚児がどうなったのか、再訪していないので知らない。

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三語一行「とう・ろく・せい」
昨日書いてる途中で寝てしまったので、さっき残りを書き上げました^^;
のんびり書いたら七枚。。。
んーなんか好きなので、鍛錬場行き候補にしようかな

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すいません。「ろく」を消化してませんでした^^;

Posted by kakimi at 2004年07月13日21時29分49秒 | コメント(0) | Trackback(0)



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