2004年08月06日21時21分12秒

『蛇含草』 [ 3分で読めるもの ]

 気がつくと液化していたのである。昨日のこと、会社帰りにばったりと会った友人と居酒屋に寄り、その友人とは久しぶりに会ったのでついつい話が弾み、当然酒もすすみ、話が尽きても翌日が休みであるので酒ばかりはどんどんすすみ、途中で前後不覚に陥ったらしく、気がつくと友人宅のバスタブの中で朝を迎えていた。バスタブの中は液状となった私で三分の二くらい満たされている。「これはどうしたことだろう」バスタブを心配げに覗きこんでいる友人に、とにかくも聞いてみた。覚えてないの、と友人は聞き返してきたが、私が覚えているのは居酒屋で冷酒の追加を頼む時に「ぇいしゅほういっほん」と呂律のまわらないことを言って、ああ、まずいなあ、とおもったあたりまでだ。目の前のテーブルに冷酒のガラス瓶が林立していたのは覚えている。「あんた、あの店を出てからさ、気持悪いぃとか言って漢方の店に入ったんだよ。で、店主のおじさんにさ、お腹がぱんぱんで重い、なんでもいいからすっとするやつ寄越せぇって怒鳴ってさ。ありゃあ悪い酒だよ、ひどい絡み方だった。そしたら、おじさんが店の奥から黄金色した液体の入った小瓶もってきてさ、なんかちっちゃい蛇やら蜥蜴やら朝鮮人参みたいな根っこやらが底に沈んでいる気持悪い薬酒なんだけどさ、あんた一息にぐいいいと飲んじゃった。飲み終わったとたんに、あんた、ばしゃあってかんじで水になっちゃったのよ」ウウム全然覚えていない、と私が言うと、友人はハアと溜息をついて「そのあとあんたは液体化しているのに『ああ、楽になった楽になった』とか呑気なこと言ってるしさ、店主は『用量が多すぎだ。服用量は瓶のラベルに書いてあるだろ。私はしらんよ』みたいなこと言って逃げるしさ。しょうがないから雑巾であんたを拭き取ってポリバケツに絞り入れて、水がたぷんたぷんしてる何十キロものポリバケツを背負って帰ったんだよ。電車では変な目で見られるし、あんたは『あはは、もう一軒〜』とかバケツの中から陽気な声をあげるしさ、ほんと、ドブ川にでも流してやろうかとおもった」と一気にまくし立てた。ウウム、かなり怒っている。私はとりあえず、こめんなさい、もうけっして悪酔いはしません、と誓っておいた。どうだか、という友人の冷たい視線を浴びながらも、ともかくもどうしよう、と対策を練ることになった。
「自分で形はとれないの?」
「できなくもないけど」
 私は右手に意識を集中した。ハタから見ると私はどこがどこだかわからない液体であるのだが、ちゃんと自分の感覚としては、ここが右手、ここが左足、ここはこめかみあたり、と以前の肉体の各部位に液体を分けることができる。もっとも足の裏が頭の上にあったり、耳の横にへそがあったり、顎の下に左手の中指と薬指だけがあったりと、ややこしいのではあるが。とにかく右手に意識を凝らすと、右手であった液体たちは次第に一箇所に集まりはじめ、以前の形を取りはじめ、バスタブに満たされた液体の一部が盛り上がって、水できた右腕となった。しかし……
「ぷはっ」私は長いこと水中で息を止めていた人のように大きく息をはいた。その途端、右手は形をうしない、ばしゃりと元の液体に戻ってしまった「これ、相当集中力がいるんだよね」
「うーん、鋳型にでも入れて焼いてみようか」
「私はワッフルじゃないよ」
 なんだかんだと相談の末、ゴム製のウエットスーツを着用することにした。それならとりあえず形は保てるし。まあ、別にいいんだけど、海中でもあるまいにウエットスーツを着て電車の吊革につかまり出勤、というのはかなり恥ずかしい。これからは飲み過ぎないようにしなくては、と少しだけ反省した。
――――――――
三語(一行)「けつ えき がた」
なんか最近文章のリズムが悪いなあ、と思っていて、どうもムリに一行で書こうとしているからじゃないかとこれを書いてて気づきました。いや、気のせいかもしれないけど^^;
というわけで後半改行してます

Posted by kakimi at 2004年08月06日21時21分12秒 | コメント(0) | Trackback(0)



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