2004年08月12日22時04分01秒
『シゲじいの砲塔』 [ 3分で読めるもの ]
いつも遊んでいる友達連中との話の中で、木彫りの像に命は宿るのかという疑問がでて、木はどこまでいっても木だろうという意見がでるなかで、知ったかぶりのヨウスケがさも本当のことのように胸をそらして言った「形があるところに命は宿るのさ。タマシイは空のそこここを浮遊していて、自分に一番あった形を見つけるとそこに入りこむ。仏像やキリスト像をわざわざ作るのは、仏様やキリストがああいう形をお好みなのさ」
なんだか説得力があるので、ぼくらがそうなのかなぁ、と頷いたり首を捻ったりしていると、いつもは意見をしないで隅っこのほうでおとなしくしているフクシがちょっとどもりながら意見した「で、でもね、ヘンな形のものにもタマシイは宿るのかなぁ。ほ、ほら、シゲじいの砲塔、あ、あれに宿るタマシイって、ないとおもうの」
シゲじいというのは先の大戦で殊勲をあげたのが唯一の自慢である身寄りのない爺さんで、先の大戦がもう三十年も前だというのにいまだにその話を会う人会う人に自慢していて、結局それしかない爺さんなのでぼくらにも馬鹿にされているような人なんだけど、最近は呆けてもいるらしくちょっと可哀想かな、てぼくはひっそりと思っている。シゲじいはぼくらの村を見おろす禿山のてっぺんに小屋を建てて住んでいて、禿山のてっぺんの岩石を削って砲塔を彫りだそうとしていた。なんでそんなことをするのかわからないけど、シゲじいは大戦のときに城砦を守る砲兵であったそうだからそれを懐かしんでいるんだろう。ただ、岩石を彫って姿を現した砲塔は村のほうを向いていてちょっと油断がならないかんじだ。
ともかくぼくらは、砲塔にタマシイが宿ったのかどうか真相を究明しよう、と禿山を登った。砲塔にタマシイ、てなんだろう。砲塔は砲塔じゃないのかな、元々命なんてないし。そんなことを思いながら。
禿山の頂上に着くと、安い木板で作った粗末な小屋にはシゲじいは居ず、崖のほうに回りこんでみると、やっぱり崖の斜面に彫られた砲塔にシゲじいは居て、ノミで細部を彫り上げていた。
おーい、と一声かけて、ぼくらはお尻をついて崖を滑り降り、砲塔にしがみついてるシゲじいの側に着いた。
「シゲじい、砲塔に命はあるかい? あるだろう。形に命は宿るからね。あそこの教会のてっぺんの十字架をぶっ放してくれよ」
ヨウスケは村の中心にある、村でも一番背の高い建物である教会の屋根を指差した。教会の頂上で、偉そうに村を見下ろしている十字架を砲弾が粉々にしたらさぞかし愉快だろう。でもヨウスケの口元には薄笑いが浮かんでいて、自分で言ったことをあまり信じていないようだ。
シゲじいはノミを使う手を止めてぼくらのほうをジロリと睨み、「切り人をぶっ放してどうするか」と吐き捨てた。「そんなもん、なんの益もない。切り人は人を救わんかったけど、じゃからと言ってぶっ放せば戦争が終わるか」どうもシゲじいの頭のなかでは戦争は終わってないらしい。ヨウスケをはじめ友達たちはクスクスと忍び笑いをした。
ぼくはなにかその小馬鹿にした笑いが癇に障って、でも友達らに文句を言うのも躊躇われて、しょうがないのでシゲじいに聞いてみた。
「じゃあ、なんのために砲塔を彫っているの」シゲじいは今度は振り返らず、砲塔にノミを振るいながらぽつぽつと話し始めた。
「そりゃあ、こいつが戦友だからじゃ。こいつと儂は城砦を守るために必死に戦った。敵が来ると儂が砲弾を込め、火薬を注いで撃鉄をおこすレバーを懸命に引いた。あれは重くて引くのが大変じゃった。それを何度も何度も繰り返した。こいつも儂が込めた砲弾を懸命に敵に向けてぶっ放した。内側を火薬の熱で焼かれて、さぞかし熱かったろう。砲弾をぶっ放すときの震動はかなりこたえただろう。でもこいつは懸命に、正確に砲弾を敵地に送り出してくれた。何度も何度もじゃ。敵のこない日は、儂はこいつを磨いてやり、砲身の内の煤をはらってやった。それと色々な話をしてやった。戦争のことでない、村のお祭りやら町方のほうの市場の賑わいやら、そんな話をな。こいつはウンウンと興味深げに聞いていたよ。一度見たいなあ、とも言っとった。なに? 砲塔が喋るか? お前らはいま形あるものに命は宿ると言っておったろう。宿るのじゃ。あいつは兵器として生まれたが、宿ったタマシイは実直で優しいタマシイじゃった。なんで優しいタマシイなんぞ宿ったんじゃろうな。戦場には無用のものじゃ。自分の頭の上に雲雀が巣を作ってな、儂が除いてやろうとしたら、別に構わんと言う。雛のピーピー鳴く声はむしろ心地よいなんてな。そんなやつじゃった。ああ? あいつがどうしたかって? 死んだよ。壊れた、というのかな。敵の大攻勢があってな、むこうの戦車の砲弾が儂ら目がけて飛来した。あいつはいつもは儂の操縦するに任せているのに、そのときばかりは自分で回転した。右に回転して左の腹を飛んでくる砲弾にむけた。雲雀の巣は右のほうにあったし、回転したおかげで儂は砲塔の外に素っ飛ばされたしな。おかげで儂も巣の雛たちも助かったが、あいつはもう物が言えんようになった。左のどてっ腹に大穴が空いて砲身も曲がり、儂はたしかにあいつのタマシイが抜け出して空に昇っていくのを見た。ぶっ壊れて煙が立っているようにも見えたけど、あれはたしかにあいつのタマシイじゃ」
ぼくらは、いつのまにか皆無言で聞いていた。ヨウスケも黙ってしまったし、フクシは元々黙っていた。お、とシゲじいは青く澄みきった空を仰ぎ、懐かしそうな顔をした「ようやくあいつがこの型をみつけたようじゃ。ふわふわ、いままでどこをほっつき歩いとったんじゃろうな」
白いけむりのようなものが空の青から線を引いて砲塔の彫像に吸い込まれた。岩石でできた砲塔がギシギシといいながら砲身を上に向ける。狙うは、教会の十字架よりも高い、どこまでも青がつづく空。ずん、と足元を揺らして、砲塔が火を噴いた。群青色に塗りたくった空に、白い花が咲く。シゲじいがきっと語って聞かせたのだろう、あれはたしかにお祭りの花火のようだ。
――――――
三語(一行)「ほう きぼ しっ」
「命・タマシイ」「あいつ・こいつ」など表記に統一感がないのですが、書いたばかりだとどうも直す気がおきないので(めんどくさい^^;?)、そのままあげときます。
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