2004年07月10日22時47分10秒

『蹄の音』 [ 5秒で読もうと思えばできなくもないもの ]

 行き先を決めずに、鈍行列車に乗った。平日のお昼のせいか、乗客もまばらで、缶ビールを飲んでうとうととしていると、知らぬ間に、知らぬ駅に着いていた。降りて駅名をみると「ゴラン高原」とある。たしか中東のほうの高原だったような気がするのだけれど、線路で繋がっているとは知らなかった。改札をでると、ほんとうになにもない、まばらに低木が生えているのみのだだっ広い草原がどこまでも広がっている。どちらを見渡しても人家らしきものはなく、はてどうしようかと考えていると、隣に、一緒に降りてきたらしい男がいるのに気がついた。白装束に手甲脚絆、笠を目深に被り、小さな銅鑼のようなものを手にしている。「巡礼ですか」私は、その出で立ちから予想して訊ねてみた「はい。昔、この地でリザードマンを屠ったことがあります。ああ、勝手に猟師連中がそう呼んでいただけで、まあ、鰐男とでもいう生き物です。革が高く売れたもので、当時密漁が流行ってたんですね」男は、ぼそぼそと呟きながら、銅鑼をひとつゴーンと叩いた。低くくぐもった音は、空気を震わせながら、高原を波状にひろがっていった。「私は観光がてら、プロの密猟師たちの猟に一度だけ参加しました。猟、というか、狩りというのは人間を、人間とはちがう猛々しいものに、ひどく血なまぐさいものに変えますね。私は、嬉々として、鰐男を追い詰め、頭に弾丸を叩き込み、首を切り落とし、革を剥ぎました。血にまみれた私の笑い顔は、さぞかし凄まじかったことでしょう」「はあ」私は返答に困ってしまい、ザアと風が吹き渡る高原に視線をさまよわせた。男は、私に聞かせるつもりなのか、独り言なのか、よくわからない口調で続ける「私にとっては、観光のお遊びでした。じっさい、帰ってから、一度も思い出さなかったですね。仕事も忙しかったし。ところが、会社を定年になって、暇が出来て以来、夢をみるのです。鰐男の妻と息子の夢です。高原で私が立ちすくんでいると、はるか向こうから、鰐女と鰐息子が馬に乗って駆けてくる。手に青龍刀のようなものを持って。風のように駆けつけた鰐女は、私の首を切り落とします。私の首はコロコロと転がり、鰐息子が私の四肢を切り落としているのを見届けるのです。私の皮が剥がされている様を、なにかほっとした気持ちで眺めているのです。私は、あのほっと安堵した気持ちを得たいために、ここに来ました」「そうですか」停車した列車が発車を告げる汽笛を鳴らし、私は男と別れ、列車に乗り込んだ。列車は動き出し、私は車窓から、高原の真ん中で佇んでいる男を見送った。ふと、地平線の向こうから、蹄の音が聞こえる。二つの馬と馬上の人の影が、男にむかっていくのがちいさく見えた。

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三語一行「マン ドラ ゴラ」
んー、かなり粗いです^^; 三語は時間勝負なところありますし(言い訳
書き足りない部分がかなりあるので、リライトしたい話ですね。

Posted by kakimi at 2004年07月10日22時47分10秒 | コメント(0) | Trackback(0)



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