2004年07月10日22時51分28秒

『税官吏』 [ 5秒で読もうと思えばできなくもないもの ]

 トルポー氏は、町一番の大金持ちで、町一番の太っちょ、おまけに町一番の大食漢だった。大金持ちで働く必要もないので、毎日毎日食べあかす日々だった。氏は地元の名産から古今東西の珍味まで、ありとあらゆるものを食べ尽くす。専用のコックが十二人いて、休みなく料理を作り続けたが、トルポー氏の胃袋の消化速度はそれをはるかに上回り、料理のあいまの口寂しさを机を齧ったりしてしのぐ有り様である。コックや使用人たちもこれには困り、ある時トルポー氏の気を紛らわせようと楽隊を呼んで演奏させたのだが、指揮棒を振っている指揮者の顔がカボチャに似ていたのでトルポー氏は思わず彼を食べてしまい、逆に結構な騒ぎになってしまった。下手をすれば自分も食べられかねないと、コックや使用人たちは皆暇乞いもそこそこに屋敷を逃げ出し、トルポー氏は料理を作る者も運ぶ者もいなくなってしまったので、そこらの家具や調度品をガジガジと齧ってすごした。屋敷は広大であったが、トルポー氏は、わずか数日でほとんど食べつくしてしまい、かろうじて残ったベットに布団を何重にも巻いたような巨体を横たえて、天井もなくなって青い空ばかりが広がるのを眺めていた。「儂の体では動くこともままならん。あとは地面を食べて掘り進むしかないか」そう一人ごちていると、玄関をコツコツと叩くものがある。もっとも壁は食べ尽くしたので玄関しか残っていないのだが、随分と礼儀正しい人物のようだ。扉が開き、ロイド眼鏡をかけてピンストライプのスーツを着た痩身の青年が、慇懃な態度で挨拶した「税官吏です。税の徴収にまいりました」「税? 金なら払っているだろう」「いえ、食物連鎖はご存知ですか? 摂食したぶんは他に返す、という決まりです。あなたは随分と貯めこんでいますので、そろそろ返していただかないと」いつのまにか、トルポー氏の周りには、ライオンやゾウやハイエナやサルやハトやスズメやクワガタやアリやカシノキやヒマワリや、とにかく数え切れない動物植物たちが、取り囲んでいた。「では、私は1ポンド」「私は3ポンド」「ぼくは小さいから半ポンド」「私は植物なのでオンスでもらいます」動物植物たちは、口々に言いながら、波のごとく寄せ、トロポー氏を覆い尽くした。動物植物たちの波が引いていったあとには、空のベットがあるのみだった。

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三語一行「はら、がく、ろい」
太っちょ=なんでも食べる、という発想は、わりとありがちでどうかと思ったんですが、
なんとなくラストが気に入ってるのでアップしておきます(って、最近全部あげてるけど^^;)

Posted by kakimi at 2004年07月10日22時51分28秒 | コメント(0) | Trackback(0)



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