2004年07月21日00時27分51秒
『花嫁御寮』 [ 3分で読めるもの ]
マツがお屋敷に召抱えられて三年になる。任されたのは赤子のお守りであるが、薪拾い、薪割り、洗濯、炊事、と暇さえあればなんでも言いつけられ、毎日毎日日のとっぷりと暮れるまで働き詰め、くたくたになって夜中女中部屋に敷かれた布団にたおれこむ日々だった。屋敷の主は豚の妖怪であり、それゆえ人間のマツは妖怪扱いされない酷い待遇であったが、それでもマツは真正直に身を粉にして働き続けた。ある日のこと、マツの元に故郷の母から手紙が届いた。『お父が流行り病に倒れた。お医者に診せたいが金がない。なんとか工面できないものか』というものだった。早速マツは屋敷の主人に金を前借できないかと頼んだが、豚の主人は、豚の友人達と麻雀の卓を囲みジャラジャラと牌をかき混ぜながら「知ったことか。人が死ぬのは柿が落ちるのと似たようなものだ」とかけあってくれなかった。マツは故郷の父のことが心配でろくに飯も喉を通らぬ、床に着いても眠れぬ日々をすごした。そんな時に、豚の主人の一人娘に縁談が舞い込んだ。隣村の庄屋の息子との縁組で、相手も豚であるのでトントン拍子に事が運び、あっという間に婚姻の段取りとなった。いよいよ豚の花嫁が輿入れするという日、お屋敷にはたくさんの豚の親類縁者が集まり、賑やかな宴席が設けられた。マツも屋敷の門口で訪れた豚たちに記帳してもらい、祝儀の熨斗袋を預かるという仕事を任された。招待した客の大方が記帳をすませて屋敷に入り、マツはぽつねんと門口に置かれた記帳用の机に顎肘をついた。足元には祝儀の熨斗袋が詰まった紙袋がある。これだけあれば、とふとマツは思った。思ったら、そのことでマツの頭の中はいっぱいになった。はやく、はやくお父のところに届けねば。マツはそのことばかり思い立って、熨斗袋の入った紙袋を提げ、屋敷を逃げ出した。懐かしい故郷は、三つの山と二つの川と一つのアザミの咲く野原を越えなければならない。マツは昼夜を眠らずに駆けた。マツが祝儀を盗んで逃げたことは、すぐに屋敷でも知れた。豚の妖怪たちは大層憤慨し、いつもの唐着物を着た姿を捨てて、四足の豚の姿でマツを追った。マツが三つの山を越え、二つの川をザブザブと泳ぎ、一つのアザミ野を足を血だらけにして越えたあたりで、はるか後ろから、ブヒブヒという轟きが聞こえてきた。おそろしげにマツが後ろを振り返ると、土煙を立てて、凶暴な豚の群れが押し寄せてくる。マツは草鞋を脱ぎ捨て、一目散に逃げた。はあはあと息を弾ませ、小石で足の裏を血だらけにしながら駆けた。やがて小高い丘を登りきったところで、懐かしい故郷の村が眼下に見えた。秋も深まった日暮れ時、まさに沈もうとする夕日が村を黄金色に染め上げていた。藁葺きの家々も、収穫を待つばかりの稲穂の絨毯も、すべてが金色に燃え上がっていた。マツは懐かしさで胸がいっぱいになって、思わず歩を止めてその風景に見とれた。マツの浅黒い、垢と土にまみれた頬にも眩しい陽光が降り注ぎ、つたう一筋の涙を覆い隠した。立ち尽くしたマツの牛蒡のような足に、真っ先に追いついた豚が喰らいついた。次々と追いついた豚たちは、マツを引き倒し、手足頭に喰らいつき、蹄で踏みつけた。豚の群れに呑み込まれてマツの姿は見えなくなり、やがて豚たちが興奮冷めて立ち去ったあとも、引き裂かれてズタズタになった木綿の着物の切れ端にしか残らなかった。
豚の主人のお屋敷では、三日遅れて花嫁の輿入れの儀が行われた。秋晴れのからっとした青空の下、白無垢を着た豚の花嫁は、駕籠に乗せられ静々とお屋敷を出立する。集まった親類縁者は皆口々に「やあ綺麗だねぇ」「三国一とはこのことだ」「お日さんも門出を祝ってるよ」と花嫁を褒め称え、よき日を寿いだ。主人の家の一番下の幼い息子が、花嫁御寮の行列を見物しながら「ほんに目出度いよい日柄、花嫁御寮がまかりこし、おもわず稲穂も頭をたれる」と唄った。近くにいた者が、それは何の唄だ、と聞くと、幼い豚の子は、姐やがよく唄っていたのだ、と答えた。
――――――――
三語一行「めし・のし・たく」
んー昨日完成しなかった話を無理矢理でっちあげました。
色々粗い、苦しい。あはは^^;
書いたあとで思ったんですけど、これ、千と千尋が元ネタなんだろうか。あれ見てないからよくわからないけど(笑

